「で、アナモグラって何のこと? あ、分かった。穴にモグラがいるのは当たり前のこと、転じて誰もが知ってる当然の事実、つまり常識的であることを指す慣用句ね。使い方としては『お前さ〜そんなの社会人ならアナモグラだろ?』とか『ホンっとアッタマ来ちゃう! あんなにアナモグラの欠片もない人だなんて思いもしなかったわ!』とかとか」
「やあねえ違うわよ。穴モグラじゃなくってアナグラム。文字を入れ替えると別の意味の文章が出来るっていう、いわば言葉遊びね」
「へーそうなんだ」
「例えばそうね……『今夜は寿司か』っていう文章があるとするでしょ」
「お、いいねえ寿司寿司」
「これをまず、全て平仮名に直すと……『こ ん や は す し か』となる」
「うわ28にもなって道路に落書き始めやがったぞ。つーか何でいい大人がロウ石とか持ち歩いてんだよ……懐かしいけど」
「これを並べ替えると……『は ん こ や か し す』つまり『判子屋カシス』となるわけ」
「おおお凄え。ハンコとか売る気全くないけどね。で、さっきのメールもアナグラムだとおっしゃるんですね先生?」
「その通り。ちなみにかの有名な『いろはにほへと』も五十音のアナグラムと言えるわね」
「なるほど」
「それでええと何だったっけ?」
「『目的地にもう着きました。待っています』です先生」
「じゃあまずはそれを平仮名に分解しましょう。
『も く て き ち に も う つ き ま し た ま っ て い ま す』
……と」
「結構長い気がするんですけど大丈夫ですか先生」
「大丈夫よ。たいていの文章は多少の強引さを伴えば何かしら別の意味に変換できるものなのよ」
「どっから手を付けていいのやらさっぱりです先生」
「一気に何とかしようとするからこんがらがるのよ。まずはパッと見て適当に単語を作ってみるの。そしてそれを繋ぎ合わせていく」
「うーんそだな……も、もち……てき……うつ……あ! 分かりました先生!」
「あら早いわね。どうなったの?」
「『気持ち的に溜まっています苦痛』」
「……それだとちょっと余るんじゃないかしら」
「き も ち て き に た ま っ……あ、ホントだ。『も』と『ま』と『し』が余るや。じゃあこれならどう? 『マシモ、気持ち的に溜まっています苦痛』どうどう!? イケてるんじゃね!?」
「何よマシモって」
「え? 高校のときの担任。ハゲで腹が出てたけど髭が仙人みたいにモッサー生えてて童顔で、サンタみたいなオッサンで割と愛嬌あって嫌いじゃなかったんだけどさ、ある日のホームルームで何を思ったのか何の前触れもなくいきなり下ネタ言いやがって。ドン引きもドン引き。しかもそれ、その場で意味が分かんなくってさ、その日一日考えてようやく分かったら答えが下ネタかいっっ!! 今までの思考時間返しやがれっっ!! って感じでそれ以来マシモの授業は真面目に聞くの止めたんだよね。ちなみに担当の授業は政経」
「あら……ち、ちなみにどんなお話だったのかしら?」
「いや〜〜〜ジャスミンにはちょっと刺激が強すぎるんじゃ〜ないかな〜」
「大人のオンナの私にとって刺激的な下ネタを高校生の前で平然と言ってのけたわけ? どーゆー教育者よその人」
「ま、ほら、男子高生もいたからね。下ネタの一つでもカマしてちょいと生徒の心掴んじゃおう的な欲が出ちゃったんじゃないの?」
「そう……ま、まあいいわ。それはまた次の機会にでも詳しく聞くとして。それよりカシスちゃん、そんなスローガンというか、ニセ糸井重里の安っぽいキャッチコピーみたいのじゃダメに決まってるじゃない」
「何で? 結構ウマいこといったと思うんだけど。マシモ、気持ち的に溜まっています苦痛」
「それにそれじゃあまるで意味が分からないし。もっときちんとした文章にしないと」
「そんなに言うんなら先生やってみろよな」
「何ですか先生に対してその口の利き方は。まあいいわ。えーと、そうね……これはどうかしら? 『餅食う魔的ステッキにいつもしたまま』」
「何だそのドヤ顔は……だいたい魔的ステッキってなんだよ。そして何をしたままなんだよ」
「え? だから魔法のステッキじゃない。ニンバス2000的な」
「ニンバスは杖じゃなくて箒だろうが。つーかあたしのよりさらに意味不明なんですけどしっかりしてくださいよ先生っっ!!」
「ちょ、ちょっと待ってね……あ! 分かったわ! これよこれ!」
「またヘンなこと言ったらデコピンするからな」
「『街も食う敵にいつもキスしたままって!』どうどう!? これ正解じゃない!?」
「暗号なのにさま〜ず三村的突っ込みフレーズなのが気になるところだが……街も食う敵って何のことよ」
「そこはこれからさらに解読が必要ね」
「じゃあとりあえず置いといて。キスしたまま……キス……キス?」
「そうだわ! キスしてたと言えばさっきのメタボハゲ&長髪美青年! そうか、彼らがこの事件のカギを握っているのね……行くわよカシス!」
「いや、あいつらは単なる通りすがりの同性愛者カップルで、この件に関しては100%無関係だと思うんですけど」
